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仙台高等裁判所 昭和32年(ラ)72号 決定

抗告人 有限会社丸福商店

相手方 塚本仲右衛門

主文

原決定を取消す。

相手方の本件申立を却下する。

本件手続費用は相手方の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

本件記載並びに送付にかかる仙台地方裁判所昭和三二年(ル)第一八六号債権差押並びに転付命令事件記録を調査すると、相手方は、抗告人相手方(被告)間の仙台地方裁判所昭和二八年(ワ)第八五号売渡代金返還等請求事件につき、同裁判所がそれぞれ仮執行の宣言を付し、(一)同年九月一六日言渡した金八〇〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和二六年一二月二九日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払を命ずる判決、(二)昭和二九年七月二日言渡した金七〇〇、〇〇〇円の支払を命ずる判決に対し控訴を申立て((一)は当庁昭和二九年(ネ)第三八一号、(二)は当庁昭和二九年(ネ)第三五三号)同年七月三〇日(一)については金二五〇、〇〇〇円を供託することを条件に強制執行の停止決定を得(当庁同年(ウ)第七二号)、同年九月一五日仙台法務局に保証として金二五〇、〇〇〇円を供託(供託番号昭和二九年(金)第七六五号)し、(二)については金二〇〇、〇〇〇円を供託することを条件に強制執行の停止決定を得(当庁同年(ウ)第七一号)同年九月一五日仙台法務局に保証として金二〇〇、〇〇〇円を供託(供託番号昭和二九年金第七六四号)したこと、抗告人は右控訴事件につき、昭和三〇年三月一二日当裁判所で(一)の点では勝訴の判決を、(二)の点では敗訴の判決を受け、(一)の部分は同年七月七日ころ、(二)の部分は昭和三二年八月二三日、それぞれ確定したこと、抗告人は昭和三二年九月二〇日仙台地方裁判所に対し、右(一)の執行力ある判決正本にもとづき、相手方の前記二箇の供託金返還請求権につき、債権の差押並びに転付命令の申立をし(同庁昭和三二年(ル)第一八六号)、同月二五日同債権の差押並びに転付命令を得、該命令正本は同月二六日第三債務者国(仙台法務局)に、同年一〇月一日相手方にそれぞれ送達されたこと及び他方原裁判所は、同年九月二〇日相手方の勝訴の判決確定を事由とする本件担保(昭和二九年(ウ)第七一号)取消の申立にもとづき、担保の事由が消滅したことを理由に同月二五日右担保の取消決定をし、該決定正本は同月二七日抗告人に、同月三〇日相手方にそれぞれ送達されたことが明らかである。

以上の事実によると、前記(二)の部分については抗告人敗訴(相手方勝訴)の判決が確定したのであるから、相手方が右第一審判決の執行力ある正本に基く強制執行停止のために供託した金二〇〇、〇〇〇円の保証は、まさに担保の事由が止んだものというべく、したがつて相手方が昭和三二年九月二〇日にした右担保取消決定の申立及びこれを容れた同月二五日付原決定はいずれも正当であるが、他面抗告人は、前記債権差押並びに転付命令を得て、その正本は昭和三二年九月二六日第三債務者国に、同年一〇月一日債務者である相手方に、それぞれ送達されたのであるから、右差押命令は九月二六日に、右転付命令は一〇月一日に、それぞれ効力を生じたものであり、右差押命令発効後は、相手方は担保の事由が消滅したものとして供託金払戻請求権を行使することができなくなつたのであるから、先きに正当であつた前記担保取消決定の申立及び担保取消決定は、いずれもそのときから理由のないものに帰したものといわなければならない。もつとも、右のような差押命令並びに転付命令が発せられると、担保供与者の申立に基く担保取消決定が確定しても、(右確定の時は、右命令の時より前であつても、後であつても同じである。)第三債務者国は、担保供与者の供託金払戻請求を拒むべきものであるから、右取消決定は、転付債権の行使の妨げとなるものではなく、したがつて抗告人は、本件担保取消決定の取消を求める必要も利益もない、と考えられないでもない。しかし、供託書を保管している裁判所は、右供託金払戻請求権について差押並転付命令が発せられていることを知らない場合もあるので、右取消決定が確定した以上、担保供与者の請求に基いて供託書を同人に還付することになるのであるが、そうすると、転付命令を得た債権者は、その権利実現のため担保供与者に対し供託書の交付を求めなければならないし、担保供与者がこれに応じないときは訴訟によつてその引渡を求めるほかないことになつて、その権利の行使がいちじるしく阻害されることになるから、右債権者は、右取消決定の確定を遮断する必要があり、その取消を求める利益があるものといわなければならない。あるいは、右債権者は、右担保取消決定に対し即時抗告をするまでもなく、転付命令の効果として直ちに供託書を保管する裁判所に対し、その還付を求めれば足りると解されないでもない。しかし、保証によつて担保される損害の支払を命ずる債務名義に基いて債権差押並びに転付命令を得た場合は、担保取消決定を求めるべきものではない(大審院民事判例集一四巻三五一頁以下)が、担保供与者に対する別個の債務名義に基いて転付命令を得た場合には債権者みずから担保取消決定を受けるべきものであり(同集一一巻二二〇一頁)、本件転付命令はその後者の場合に該当するものであるから、抗告人は直ちに供託書の還付を求めることはできないわけであつて、原決定の取消を求める利益があるものといわなければならない。

以上のとおりで、本件抗告は理由があるから、原決定はこれを取消し、相手方の担保取消申立はこれを却下すべきものとし、手続費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 斉藤規矩三 沼尻芳孝 羽染徳次)

別紙

抗告の趣旨

原決定を取消す。との裁判を求める。

抗告の理由

(一) 原裁判所は、抗告人(被控訴人)と相手方(控訴人)間の当庁昭和二九年(ウ)第七一号強制執行停止事件につき、相手方が昭和二九年九月一五日仙台法務局に保証として金二〇〇、〇〇〇円を供託してした担保(供託番号昭和二九年(金)第七六四号)は、その事由が消滅したという理由で、担保を取消す旨の決定をした。(昭和三二年(モ)第五七四号)

(二) しかし、抗告人は当裁判所に対し、抗告人(被控訴人)と相手方(控訴人)間の当庁昭和二九年(ネ)第三五三号、三八一号売買代金等返還請求控訴事件のうち、抗告人勝訴の部分に対する判決の執行力ある正本に基き、前記保証金取戻請求権に対し、債権差押並びにその転付命令を申請し、その旨の命令を得昭和三二年一〇月二日該命令の正本は相手方及び第三債務者にそれぞれ送達されたから原決定は失当である。

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